太宰治「貨幣」を読んで
太宰治ばかりですいません。笑
短編集を読み返しているためです。
みなさんは"お金"を大切にしていますか??
落ちてある1円玉はどうしてます?拾いますか?無視しますか?
お財布の中のお金の使い道はなんですか?
これは、お金の使い方を少し考えさせられる物語です。
この作品、一番最初に読んだときは衝撃を受けました。
主人公がタイトルの通り「貨幣」なんです!笑
冒頭から
「私は、七七八五一号の百円紙幣です。」
シュールすぎる……一応設定は"女性"です。
ってなわけで、貨幣目線で物語が始まるのですが、時代は太宰の生きた戦時中です。
百円貨幣が流通し始めたときは、百円貨幣お金の女王だったようです。
あくまで"女王"、どの百円貨幣も女性なんですね(笑)
主人公が作られた当初、百円貨幣を神棚にあげて拝むような若い大工の手に渡ります。このときは貨幣は幸福を感じています。
しかし、二百円紙幣、千円紙幣が製造されるようになると、百円貨幣は軽視されるようになっていきます。
それから大工の妻、質屋、医学生、闇屋の使い走りという風に渡り歩きますが、どんどん自分が堕落していくのを感じます。
それと同時に世相も堕落していきます。
そう、太平洋戦争の勃発です。
その時の東京を貨幣は
「おそろしい死の街の不吉な形相を呈していました。」
と表現しています。
"死の街"と形容されたのはなぜか。
空襲が始まったためです。
また、
「あのころは、もう日本も、やぶれかぶれになっていた時期でしょうね。私がどんな人の手から、どんな人の手に、何の目的で、そうしてどんなむごい会話をもって手渡されていたか、それはもう皆さんも、十二分にご存じのはずで、聞き飽き見飽きていらっしゃることでしょうから、くわしくは申し上げませんが、けだものみたいになっていたのは、軍閥とやらいうものだけではなかったように私には思われました。それはまた日本の人に限ったことでなく、人間性一般の大問題であろうと思いますが…」
というように、そのときの日本のお金が、裏で汚く使われていたことがわかりますね。このモラルの欠如も含めて、"死の街"と形容したのではないでしょうか。
人類全体の問題といっていますが…。
最後に、陸軍大尉の手に渡ります。この軍人はひどい酒飲み屋で、小料理屋でお酌の女を大変ひどく罵ります。また、その赤ちゃんにまでも酷い言葉を浴びせます。
そのときに空襲警報が鳴り響きます。ぱらぱらと火の雨が降ってきますが、軍人は酔っ払って逃げられない。
さぁどうする。
軍人は空に向かって文句を垂れるだけ。
対して女将は一生懸命生き抜こうとします。
「さあ、逃げましょう、早く。それ、危い、しっかり」
「たのむわ、兵隊さん。も少し向こうのほうへ逃げましょうよ。ここで犬死にしてはつまらない。逃げられるだけは逃げましょうよ」
さっきまで自分と自分の赤ちゃんを罵っていた動けない軍人を助けようとするのです。
「お酌の女は何の慾もなく、また見栄もなく、ただもう眼前の酔いどれの客を救おうとして、こん身の力で大尉を引き起し、わきにかかえてよろめきながら田圃のほうに避難します。避難した直後にはもう、神社の境内は火の海になっていました。」
自分の損得勘定ではなく、他人を必死で助けようとする女性の姿があるのです。
それまで死の街で、様々に悪用されてきた貨幣はそんな人間の姿を目にします。自分のことだけしか考えない人間が多くいる一方で、そういう心の美しい人もいるのです。
その後、助けられた軍人は目を覚まし、逃げ疲れて眠っている女将の赤ん坊の背中に、百円貨幣を6枚肌着の背中に押し込んで去ります。
貨幣はそのときこう感じます。
私が自身に幸福を感じたのは、この時でございました。貨幣がこのような役目ばかりに使われるんだったらまあ、どんなに私たちは幸福だろうと思いました。赤ちゃんの背中は、かさかさ乾いて、そうして痩せていました。けれども私は仲間の紙幣にいいました。
「こんないいところはほかにないわ。あたしたちは仕合せだわ。いつまでもここにいて、この赤ちゃんの背中をあたため、ふとらせてあげたいわ」
仲間はみんな一様に黙ってうなずきました。
さわやかな終わり方です。この女紙幣が最後に生き甲斐を感じることができてよかったです。
お金は良い方向にも悪い方向にも進む、諸刃の剣のようなものですよね。
お金の価値と使い方を今一度考えていかなければなりません。
時に捨てられ、時に求められる貨幣の一生は、太宰治の女性像と重なるものがあるのでしょうか。
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